天気の良い新緑の季節、ふと思い立って渓谷に行きたいと思った。
私は山、川に囲まれた田舎育ちであるため、都会に暮らしていると、山、川が懐かしくなる。特に、新緑の季節には、美しい渓谷に身をゆだねたくなるのである。
そこで、レンタカーに乗って、渓谷に向かう。
せっかく渓谷に行くなら、釣りもしてみようか。
秩父あたりがいいかな。
竿も餌も何もかもない。秩父に釣り具屋さんがある。電話して初心者用の釣り竿などの取り扱いがあるかと聞くとあるという。よし、竿や餌はそこで調達だ。道中、たまたま100円ショップを見かけて駆け込む。買ったものは以下のとおり。
- 虫とり網 150円
- 発砲スチロールでできたクーラーボックス 150円
- 炭、着火剤、ライター
- カッター(本当はナイフが良かったが売っていなかった)
- 鉄串 3本 (魚を焼くときに使う)
- 塩
- ガムテープ黒
車の信号待ちをしている間に、虫とり網を加工して、魚を釣ったときに使うネットをこしらえた。虫取り網の長い柄を折り曲げて、15センチ程度にして、持ち手をガムテープで補強した。
季節はGW中で、道が激混み。9:30ぐらいに釣り具屋さんに到着する見込みが、お昼を過ぎた。
ようやく釣り具屋さんに着いて、さっき電話した者だと伝えると、店主がやさしく案内してくれた。でも、今からかい?って聞かれた。できれば日を改めたらどうだいという話だったが、休みはこの日しかないから挑むしかない。どうやら相当遅いらしい。日暮れまでがリミットのよう。
遊漁券を買うのも初めて。遊漁券を買って釣るようなエリアであれば、釣り堀並みにつれるだろうと浅はかな考え。3匹は釣ってやるぞと思っている。店主は、いまからだったら1匹だけでも釣れればというような感じ。餌はぶどう虫を勧められた。これから挑む私の体たらくをだいぶ気の毒に思われてらしたが、今から行くならここしかないというポイントをいくつか教えてくれた。とてもいいお店と店主だった。
竿は4.5mのもので、1,600円程度。餌代が500円、仕掛け2つで600円、遊漁券が2,000円ちょっとで合計5,000円ぐらい。
おぉ、これで装備は整った。やれるぞやれるぞ、でも時間がないな。この時すでに13時をまわっている。店主に勧められた釣り場までは車で30~40分かかるとのこと。家には夕刻までには帰宅する必要がある。釣りに興じることのできる時間は1.5時間程度か。
車を飛ばす。途中、道を間違えながらも、どんどん山道を登っていく。川が細くなり、木々が生い茂る。渓谷の景色が目にうれしい。しかし、日が暮れ始める。
ポイントに到着。車を路肩において、様子をみる。川幅は2mほど。上流のため、ごつごつした岩や石が転がっている。比較的平らな部分を探して、竿と仕掛けのセッティング。
よし、できた、釣りの開始だ!
この時、まったく渓流釣りのノウハウを知らない私。ヘラブナ釣りやハゼ釣りでは、釣果を得た経験がある。ヘラブナ釣りの要領で、目の前にぽちゃんと餌をいれてじっと待つ。川の流れに沿わせるでもなく、ただポンと置いた。
反応はない。しかし、釣りが始まったことにうれしさがこみ上げる。渓谷の美しい景色もうれしい。
よーし待ってろよ。狙いはヤマメ。
その後幾度か、キャスティング。
一向に反応はない。まぁだまだ、これからこれから。
しかし、しばらく同じ場所でキャスティングを繰り返すがとんと反応はない。
本来、渓流釣りでは、あたりがなければ、どんどんとポイントを上流に動かしながらアタックしていくようなのだが、それを知らない私。基本的に、ずっと同じところで、行ったり来たり。当初のポイントから10m前後移動した程度。まったく、反応を感じられない。
寒くなってきた。日陰にいるため、フリースを着込んで何とか耐えている。
遊漁券まで買って、ポイントまで教えてもらったのに、一向にあたりが出ない。まずい。なぜだ。
私は致命的な間違いを犯していることに気づかない。ヤマメなどの川魚は敏感だから足音などで逃げてしまうということは何となくわかっていた。しかし、ヤマメたちに見つからないように、下流に立って上流に餌をキャスティングし、餌を川の流れになじませるという常識を知らなかった。私は、上流に立って、下流に向かってキャスティングしたり(それじゃ、私の姿が魚に丸見えだ!)、一度攻めたポイントに戻ってまた同じようにキャスティングしたり。警戒心の強い、川魚からすれば、私という釣り人を川中から「なんだ、あの緊張感のない釣り人は。そんな奴に釣られるわけがなかろうに。」と思っていたことだろう。
そのうち、私はとうとう気づく。
「あれ、まずい。まさか、坊主か!?」
その後、もう一つ勧められたポイントに車で移動して15分ほど格闘するも、やはりアタリを感じることはできなかった。
結果は、アタリすら感じられず、完全にボウズ。落胆し、猛烈に悔しかった。
しかし、唯一の救いは、やはり渓谷の景色は素晴らしかったこと。
帰宅後、渓流釣りを学ぶため、You TubeやAmazon primeで閲覧できるKindle unlimitedの釣り雑誌などをひたすら見て勉強したことは言うまでもない。
私がヤマメを釣るまで、負けないぞ。